暗くなるとともに冷たい雨が降ってる。
昼12時ごろ四代目が工場の手前に来た音が聞こえた。
裏の入り口近くにいた女将が先に伝えたんです。
「テンが亡くなっただって。」
四代目は涙目になってた。
すぐに女将と30メートルほど離れた四代目の家へ、急いで行ったんです。
玄関開けて部屋のガラス戸を明けると、テンが寝ていた。
そんなふうな、いつものテンでした。
でもなぁ、呼んでも、さわっても頭をもたげぬテンさんでした。
前足を握って軽く振ってみても半眼の目を開いて、起きてこなんだ。
亡くなったんですよ。
キノさん(四代目の嫁、飼い主)が頭の近くに座ってた。
たくさんの涙をたたえて、きっとずっとなでていたに違いない。
「まだ暖かいだが、このへんも。」
ほんとに人のいい犬でした。
いつも尻尾を振って近づいて、嬉しくて興奮してた。
十数年四代目夫婦に飼われてた。
岩手生まれのラブラドールです。
大きい元気なオス。
キノさんと一緒に我が家へやって来た。
四代目の結婚式にも一役買って役目をはたしました。
それが、だんだんと歳とった。
人間なら百歳を越えてると四代目が言ってた。
耳が悪くなり、足もとぼとぼとなり、それでも我々の姿を見ると尻尾を振って嬉しそうにしていました。
先日も女将が云ってたんですが、四代目夫婦二人がテンをかかえて小便させていたそうで、でも出なかったとのこと。
小雨のなかですよ。
亡くなるまえに小便も我慢してたみたいで、たくさんして、キノさんが注射器で水を飲ましてやると飲んで、その後少し痙攣し、亡くなったようです。
飼い主の手の中でなくなったわけで、我々が見たときには安心したおだやかな表情で寝ていました。
テンも嬉しかったと思う。
尻尾はふらなかったなぁ。
とてもかわいがられて、大往生だと思います。
火葬して、庭に埋めてやることにしました。
一緒に散歩しておおきな太いうんこを拾ったりしたことを、いろいろ思い出します。
家族なんですよ。
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