それは27日木曜日の夜だったと思う。
どんな状況だったのかよく覚えていないが、急に女将は言ったのです。
「私は病気だ。」
こんなことを言うことはめったにないし、いわれることもめったにない。
しかし、交通事故でもそうだが、こういうことは突然に襲ってくるものである。
「ご飯を食べるとよくなるんだけど、食べる前には胃が気持ち悪いだが。」
典型的な潰瘍の症状ではないか。
「医者に行かないけまいやぁ。」
こんなの聞かされたほうはたまったもんじゃぁない。
潰瘍どころかさらにもっと悪いことも想像してしまう。
だって、もう我々はそんなのがあっても不思議じゃない歳ですよ。
実際知り合いも数人帰らぬ人となっている。
それでも女のすごさは平常通り家事を片付けているんです。
その夜我が家は文字通り普段より早めに暗く静かであった。
28日金曜日の朝女将は近くにある野の花診療所に電話をかけた。
もと病院に勤めていた女将であればこのあたりは手順も分かっているようであり、土曜日が胃カメラの日とのことで、時間は診療所から知らせるとのことでありました。
結果、土曜日朝9:00に診療所にいくことになりました。
さて金曜日の一日は不安という雲が工場の天井を覆って気がはれない。
その夜もなんとも、確かに普段のことと同じく、そう、客観的には同じ進行なんです。
だが、違うのは話してもその内容が違う。
ずっと頭にあるのは夫婦とも一事。
手を胸の上部、喉のつけねあたりにもっていって、
「このへんまでなんかがつまっているようで気持ち悪いだが。」
また不安が不安を呼んでくる。
おそくまで、女将は、テレビを見ていた。
その姿に声もかけられない。
そして29日運命の土曜日当日になるんです。
つづく。